はじめに

 個人の財産について、相続は大きな問題です。ここでは、相続と関連の強い贈与・遺言も併せて、相続・贈与・遺言の関係を簡単に説明したいと思います。

目 次

相続とは

 人は必ず死亡しますが、その死亡によって故人の権利や義務が配偶者や子供達などに引き継がれることを相続と言います。権利や義務ですから、不動産や預貯金などのプラス財産だけではなく、借金などの債務も相続します。
 相続における用語ですが、相続される故人のことを被相続人、相続する配偶者や子供達などを相続人と言います。相続される財産のことを、相続財産とか遺産とか言います。
 権利や義務を相続するのは何時か?というと人が死亡した瞬間です。被相続人が死亡した瞬間に権利や義務が相続人に引き継がれます。

相続によってどういうことが起こるか?(不動産について)

 相続によって権利や義務が引き継がれますが、具体的にどういうことになるか?について、最も典型的な例である不動産の引継ぎについて説明します。不動産の引継ぎとは、通常、不動産の所有権の引継ぎ、つまり不動産の所有権の移転のことです。
 故人の死亡によって不動産の所有権が相続人に移転します。その移転の結果、相続人が複数であれば相続人全員の共有となります。相続人が1人であればその1人の単有ですが、相続人が1人であることは少ないうえに特に問題がないので、ここでは相続人が複数の場合の話をします。
 相続人が複数であれば相続人全員の共有となりますが、その時期は先に記載したように故人の死亡時です。共有持分の割合は、法定相続分として皆さんご存じのとおりですが、念のために相続について のページ中に法定相続分は?として記載してあります。法定相続分は修正される可能性がありますので、一応の割合であると考えるべきです。ここでは話を単純化するために、法定相続分で共有するものとします。
 さて、故人名義の不動産を複数の相続人で共有するとはどういうことか?について説明します。共有とは、その不動産のどこを切り取っても、単有ではなく共有持分で共同に所有している状態です。相続人が妻と子供3人だとします。法定相続分は妻が2分の1子供達は各6分の1ずつです。不動産が1個であれば、その不動産を各持分ずつで共有します。不動産が複数である場合、仮に6個の不動産があるとしたら、6個の不動産の1個ずつにつき妻が2分の1子供達は各6分の1ずつの持分で共有します。6個の内の3個を妻所有し、残り3個を3人の子供が1個ずつ所有するということではありません。不動産はすべて1個ずつ価値が異なりますので、当然に納得できると思います。
 以上のとおり、故人名義の不動産を複数の相続人で相続すると、不動産が1個でも複数個でも、故人の死亡と同時に共有の状態になります。ただ、この共有というものは問題を多く含んでいます。売却する場合を考えると分かりやすいのですが、共有不動産を売却するには他の共有者と意見を調整して売却しなければなりません。共有者間で売買金額などについて意見の相違があると、売りたくても売れないということが起こり得ます。共有者間で仲が悪いと意見の調整ができません。共有者の一人が死亡したり認知症になったりすると、新たに困難な問題が発生します。共有不動産の場合には、売却以外でも賃貸や修繕など様々な場面で問題が起こります。
 このように、共有は大きな問題を含んでいますが、通常、相続においては相続人も相続不動産も複数ですから、ほとんどの場合、故人の死亡と同時に複数個の不動産が共有になります。ただ共有はすでに記載したように問題点が多いので、これを避けるために遺産分割協議を行います。遺産分割協議を行わず、故人の遺言も無ければ、相続不動産はいつまでも共有のままで放置されることになります。

遺産分割協議の意義・概略

 上記のとおり、問題の多い共有関係を解消する目的で遺産分割協議を行います。この遺産分割協議は相続人間で行うもので、簡単に言うと「遺産分けの話し合い」です。どこでも、いつでも、どんな方法でも構いません。期限もありません。要するに話し合いがまとまれば良いのです。ただ遺産分割協議がまとまらなければ、次は家庭裁判所で調停をすることになります。調停でも話がまとまらなければ、審判に移行し裁判官が結論を出すことになります。
 この遺産分割協議について、要点を次に記載します。
・相続人全員で合意する必要がある。相続人の内の一人でも合意しなければ成立しない。
・裁判所における手続きではない。裁判所とは無関係。
・どこで協議しても良いし、集合しなくても良い。TELやメールなどを利用しても構わない。
・被相続人の死亡後ならいつでも良い。期限もない。
・どのような内容でも良い。全部を一人が相続する内容でも良いし、あえて共有にすることもできる。
・不動産だけではなく預貯金やその他の遺産も協議の対象である。遺産の全部について協議しても良いし、一部について協議しても良い。
・協議が成立したら遺産分割協議書を作成するのが通常である。不動産の名義を換えるためには、印鑑証明書付きで必ず作成する必要がある。
主な要点は以上です。
 遺産分割協議をすることによって単有になると、一人で売却や賃貸などができるようになって利用しやすくなります。
 遺産分割協議をせずに被相続人の名義のまま放置しておくと、売却や抵当権の設定(銀行などから融資を受ける)などができません。駐車場として使用するなどは可能ですが問題はあります。また、時間が経過するとほとんどの場合、相続関係がどんどん複雑になっていきます。できるだけ早めに相続問題は解決した方がいいでしょう。

遺産分割協議書の例
 参考に不動産についての遺産分割協議書をアップします。
※一人がすべて相続するパターン
※複数人が相続するパターン

一般の方には記載方法が難しいようで、その最大の原因は不動産を正しく表示できないことです。不動産の表示は登記事項証明書どおりに記載します。

遺言の効用

 さて、個人が死亡し相続が発生すると遺産の共有状態になること、そして共有状態は問題が多くそれを解消するために遺産分割協議を行うことは、前段までに記載しました。
 しかし、遺産分割協議を成立させることが困難であると予想される場合には、遺言を利用する方法があります。簡単に想像できると思いますが、「相続人となる者が多い、将来相続で揉めそうである、認知症患者がいる」などの場合には、遺産分割協議を成立させることが困難であったり不可能であったりします。このような場合に、遺言を利用することによって死後の遺産分割協議を回避することができます。つまり、死後の遺産の共有を避ける方法として遺産分割協議があり、その遺産分割協議が困難であると予想される場合には、それを回避する方法として遺言があります。どちらかによって共有を避けることができます。
 遺言でできることは多岐にわたりますが、遺産分割協議を避ける目的で多く用いられます。当然ですが、遺言をすることによって、死後の遺産の分配につき自分の意思を表示することができます。
 さて、遺産分割協議を回避し共有も避けるために遺言を利用することを記載しましたが、同じような目的のために贈与も利用されます。次は贈与について説明します。

「遺言について」の詳細はこちら

贈与の効用

 親子間や夫婦間で不動産などの名義を換える場合、一般的に登記原因は贈与です。親子間や夫婦間で、不動産などを売買するということは普通にはありませんので。贈与とは簡単に言うとプレゼントです。財産を与える人が贈与者、財産をもらう人が受贈者です。贈与は契約であり、贈与者と受贈者の意思が合致しなければ成立しません。
 生前に贈与者が財産を配偶者や子供に贈与しておくことによって、遺産分割協議の対象からその財産を外すことができます。一人に贈与すれば共有も避けることができます。ただ、遺留分や特別受益の問題になる可能性はあります。
 贈与は第三者に対しても可能なので、本来、遺産分割協議を回避する目的のものではありませんが、将来の相続に備えて利用する人は多くいます。また、贈与で財産を移転するときは贈与税に注意することが必要です。財産を移転する際には税金のことを考慮すべきですが、贈与の場合は特に注意が必要です。

「贈与について」の詳細はこちら

まとめ ~相続において共有を避ける方法~

 以上のとおり、相続において共有を避ける方法を記載してきました。
将来、相続について全く揉める可能性がなければ、生前に何もすることなく遺産分割協議に任せれば良いと思いますが、そうでなければ生前に遺言や贈与を検討する必要があると思います。遺言にするか?贈与にするか?は、様々な事情を考慮して決定することになると思います。

 

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